"キノコの自由開放をめざす「キノコ連合」は現在、体制側にある最大勢力「真菌帝国」との交戦状態にあった。連合側、前線の部隊をまかされている名将、ボレトゥス・ファンガー大佐は、劣勢にある戦況を盛りかえすべく、考えうるあらゆる方策を検討していた。
そんなある日、大佐はルッスラ中尉の急報を受ける。
「たっ、大佐!たいへんです!」
「中尉か。どうした、そんなにとり乱して。」
「ハァ、ハァ、それがっ。高い評価をうけながら長らく絶版になっていたあの『石川のきのこ図鑑』がっ、再版されるそうなんです!」
「なに!数あるローカルきのこ図鑑の中でも最高の評価を受けていたあの図鑑がか!」
「はいッ。しかもそれだけじゃないんです!前作で扱っていなかった見登録種や未知の新種を大幅にくわえて、掲載種は倍以上、1403種!」
「!!」
「もちろん全種に精緻な手描きキノコ図版と胞子などの検鏡図がもれなくついて!その威力は、わが軍の主戦力『原色日本新菌類図鑑』(保育社)にならぶか、へたをすれば上回るのではないかと……!」
「なっ、バカな!最強クラス?まったく別物ではないか!」
「はい、タイトルも変わって、その名も『北陸のきのこ図鑑』……。」
「北陸の…!まさかそこまで強くなるとは……。よく報告してくれた、中尉。敵に気取られぬうちに今すぐ全部数をおさえるのだ!」
「それが……。こんな恐ろしく手の込んだものがなぜか自費出版らしく、高価な上に数が少なくて入手困難……しかも大多数がすでに資金潤沢な敵の手におちたかと……」
「くっ!またしても後手か!中尉!資金のことは私が上層部に掛けあう!ただちにっ、一部でも多く手に入れろ!行け!」
「ハッ!」
中尉があわただしく出るのを見届けると、大佐はソファーに腰かけた。白髪まじりの短髪をかき上げながら、大きくひとつため息をつくと、そのまま左手で両目を覆うようにして、背もたれに身をゆだねた。彼のデスクには、読みかけの報告書が数枚と、それに昨晩のコーヒーがまだそのままになっていた。戦火の近づいた司令官室を静寂が覆う……。
「原色日本新菌類図鑑」(保育社)、「日本のきのこ」(山と渓谷社)の2大巨頭の発刊以来、十五年以上きのこフリークを待たせ続けてきた‘次の図鑑’がついに出た!大部「北陸のきのこ図鑑」。中身のないゴミ本が版を重ねて文庫まで出す一方で、これほど質の高いものが出版社に門前ばらいをくらうとは……物の値打ちが見ぬけんのか。たとえ自分が北陸に住んでいなくとも、この内容で15000円は安い。
現在熱心なキノコ仲間に口コミで広がっており、売り切れるのも時間の問題だろう。フリークの力あなどるなかれ!連合軍の反撃の日は近い。"
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